本願寺 井上鋭夫 講談社学術文庫

 最近、京都関連の本を読んだり実際に京都に行ったりしたりするなかで、本屋でふと見かけた本書です。一見、「本願寺」なので宗教書なのかとおもいきや歴史・経済・文化の客観的研究書です。親鸞が宗祖の真宗本願寺教団の始まりから発展そして組織としての完成、時代的には鎌倉時代から明治初期までの「本願寺」という一つのお寺の約700年間の歴史をまとめた本です。
 読んでみるとこれが面白い。当初は貧乏のどん底であった新興教団がいかにして日本最大級の仏教集団に発展して行ったのか?いかに戦略的であったのか?いかに当時の時代情勢にマッチしたからこそ発展できたのか?いかにして、他宗派から本願寺教団に移りかえるお寺が続出ことが可能だったのか?読み進めるほどにその巧みな戦略に驚くと同時に、現在にも通じる部分が多々存在するのに気が付きます。
 例えば、新参ゆえに旧来の価値観の集団からは「異端」扱いされた者たち、農業技術の飛躍的発展に伴う富裕農家、このような新興勢力を巧みに取り込んでゆく姿や、あくまで、「末端」の存在あってこそという布教方針(わかりやすく言えば、本山-直轄の地方のお寺-末寺-信者とあるとすれば、信者こそが最も重要視される方針)などなど、実情はともかくとして建前として少なくとも信者の前での懇切丁寧な振舞いを見てみると、現在で考えてみれば企業経営なんかにも通じるものがあるのではないと思いました。
 しかし、この農村部に強い力を持ったがゆえに歴代の政権や対抗勢力からは常に干渉を受けることになり(江戸にいたるまで「米の年貢」中心であったことを考えると当然のことなのかもしれない)、そのたびに危機を乗り越えてきたのはやはり驚かずにはいられません。
 本書は、現在のようなコロコロとかわる時代に読んでみると読む人それぞれに意外なヒントが隠れているのかもしれないですね。