「トレイシー 日本兵捕虜秘密尋問所」 (著)中田整一 (出版)講談社

 第二次大戦中に米国において、日本兵を秘密裏に尋問し日本の極秘情報を集めていた「秘密尋問所」について書かれた本です。実は、戦後数十年がたってから情報が公開され、それまでは存在すら知られていなかったという尋問所なんですが、秘密のままにされたその大きな理由として、

1.盗聴行為をともなった聴取を行ったために、ジュネーブ条約に抵触したため
2.尋問で証言した捕虜が帰国後に故国での不利益を被ることを危惧し関係者が守秘義務を守り通したため
(「トレイシー 日本兵捕虜秘密尋問所」より抜粋)

ということが主な要因となっているようで、ようやく最近になって徐々にその実態が明らかになってきたというのが本当のところのようです。

 本書を読んで非常に興味深いのは、頑強と思われていた日本兵が想像以上に日本の秘密時には超極秘情報をも簡単に米国側に話すことにより、日本の兵器の詳細、日本国内の軍需工場の配置(どの地域にあるかというだけではなく、工場内の組み立て配置まで含む)、日本の政治・官僚機構の詳細、などなど相当詳細な情報が筒抜けとなっていた実態が明らかにされています。例えば、零戦の製造工場の配置図(どこで組み立てが行われており、どこから部品が届いているのか?)や皇居の配置図など極めて詳細なレポートが大量に残されています。

なぜ、極めて詳細な情報を捕虜は米国に伝える気になったのかを本書は、

捕虜自身が、日本国内で受けていた教育と、実際に捕虜となり米国で受けた極めて人道的な扱い(盗聴されていた点は除く)との落差が大きな衝撃となり、捕虜自ら進んで秘密を語っていった。
(「トレイシー 日本兵捕虜秘密尋問所」より抜粋)

というのが、実際のようです。
 現代の組織においても、情報や組織の中の人の管理を考える場合に大きな示唆を与えてくれる内容であると思いました。