藤田嗣治の手しごとの家 林洋子 集英社新書

 レオナール・フジタこと藤田嗣治の「手仕事」という側面に焦点を当てた本です。エコールド・パリを代表する画家の藤田ですが、実は身の回りの物を手作りできるものは出来る限り自分で作っていたという事実を本書を読んで初めて知りました。
 自宅を理想化した模型やインテリアという一般的に考えられる自分で出来る「手仕事」という範疇(といっても、素人のレベルでは当然ながら違いますが)をはるかに超えて自分の着る洋服まで生地から裁断し縫製まで自分自身で行っていたという事実(もっとも、気軽に着るための服であり、公式にはキチンとした仕立て屋さんの服をあつらえていたとの事)、また、食器類にかんしては自分でロクロを回し自分だけのオリジナルの食器を利用していたりするには驚きました。第一、アトリエにキャンバスとミシンがある画家というのは後にも先にもあんまりいないんじゃないでしょうか
 また、世界中を旅した藤田のセンスはその旅行中に集めた各地の民具などが部屋のインテリアとして独特の空間を演出しており、まさに「藤田嗣治」の世界を表現しています。
 それにしても、当時の写真が何枚も掲載されていますが、今の時代に見てみてもなんともインパクトを与えられる部屋や服装です。
 また余談ですが、本書の中で藤田の趣味として写真が出てきますが、当時極めて高価であったコンパクトカメラを使って沢山の写真を撮影していたり、また、その縁もあってか開高健マン・レイといった写真家との交流もあったとの事。「マン・レイ」という名前を見て「おや?!」と気が付いたのは今年、国立国際美術館で開催される「マン・レイ展」のマン・レイだということ。なるほど、この時代の写真家だったんですね。機会があれば行ってみたいとまたまた思いました。