ルノワール〜光と色彩の画家〜 賀川恭子 角川書店

 先日鑑賞した「国立国際美術館「ルノワール〜伝統と革新〜」」展にて購入した文庫本です。本来なら図録を買うべきなんでしょうが、この文庫本でも案外情報量が多かったのでこちらを購入しました。
 まず、ルノワールその人自身は、裕福とはいえない家庭の出身であったがゆえに、「生活のために」描くという過程も経てから独自の世界観を作り出していったと言う点。特に、初期から「生活」のため、もっと言えば「自ら描いた絵を売るため」に当時の公式な公開のショーウィンドーでもあったサロン(官製展)に毎回出品し、入選を目指すものの、落選を繰り返したがゆえに、後に自ら独自の組織をつくり展覧会兼即売会を開催したりするという点。特に、この独自の展覧会では、当初は画廊を借り切って展覧会を開いていたものの『購入者』(←つまり、顧客が貴族階級から産業革命の進展による新興のお金持ちへの変化という流れのなかで)の目線にあわせて、三回目の独自の展覧会では画廊ではなくアパートの2階を借り切った上で

観客は、自宅の壁を飾る様子を想像しながら、作品を見ることができた。
(「ルノワール〜光と色彩の画家〜1877年、第三回印象派展での積極的な広報活動」より引用)

という、極めて商業的な視点で行うようにある意味で画家自身も「市場指向」的な動きをしていたことがよくわかります。
 また、そのほかで興味深かったのは、長年のパトロンであった人物が無くなった際に自らがパトロンとして支え続けてきた印象派の画家達の絵を、自らが亡くなる前に遺言として国家の美術館へ遺贈して欲しいと望みを表明した際に、執行人としてルノワールが指名され自らのコレクションの中からルノワール自身用に、一点好きな絵を受け取って欲しいと伝えられたルノワールドガの絵を選ぶのであるが

コレクションのなかから自分用に一点を選ぶようにと伝えられたルノワールが選んだのは、ドガパステル画《ダンスのレッスン》だった。それからまもなくして、金銭の必要があった彼は、その作品をデュラン=リュエル*1に売却してしまった。そのことを知ったドガは、ルノワールを生涯許さなかったという。
(「ルノワール〜光と色彩の画家〜評価の確立に向けて 評価されはじめる作品」より引用)

というように、ルノワールは友情と言うよりも結構ビジネスライクな側面をもっていたことがわかります。
 さらに、描かれた絵を良く見ていけば、人物表現もさることながら、帽子や衣服、室内ピアノ、当時流行したジャポニズム文化*2など当時の流行や高級品とされる「新興ブルジョア」に標準を合わせたといわれても過言ではない画面構成であることが明らかにされ、なんだか現代の商業主義に通じる部分が垣間見えます。
 本書を読んで、ルノワールのしたたかさを感じると同時に、それでいても展覧会で見たあのような明るい幸福を感じることが出来る絵を作ることが出来たのはさすがであると思いますね。

*1:ルノワールを扱っていた画商

*2:例えば、日本の団扇が描かれたものもある。しかし、ルノワール本人はそれほど日本文化が好きだったというわけではなかったらしい