博覧会の政治学〜まなざしの近代〜 (著)吉見俊哉 (出版社)講談社学術文庫

 政治学とタイトルには入っていますが、実際には、博覧会を通じた暗喩がいかに世間大衆に影響を与えてきたのかを客観的にまざまざと見せ付けられる内容となっています。
 興味深いのは、海外の万博(1900年代のパリ万博を代表する万国博)において、帝国主義的な内容が極めて密接に展示されていたこと。例えば、植民地の現地の人を囲いの中で生活させるいわば「人間動物園」的なことが堂々と行われていた点。日本においては、内国博覧会からものを「消費する」という視点が生まれやがては百貨店の誕生へとつながっていく点(この点については、以前に読んだ「百貨店を発明した夫婦」を参照するとよりわかりやすいです。)戦後の大阪万博においてなぜあれほどまでに人が押しかけることになったのか?(具体的には、海外では既に始まっていた博覧会のテーマパーク化が遅れて日本にやってきた点および展覧会が広告塔の役目を担うようになった点、そして、イベントの後ろに広告代理店が活動するようになった点)などなど、なかなか興味深い内容となっています。
 本書を読んで、海外・国内・年代を問わず、展覧会は極めて巧妙に直接的ではないものの「暗喩」という手法を使ってメッセージを発しており、実は、当事者として会場内に訪れた観客にとっては知らず知らずのうちにイメージとして出来上がっていくまさに「視覚」を最大限に利用したショーを見ているようでありながら、その裏には明白な意図が隠されている点に注意しておく必要があることに気が付かされます。
 ひょっとすると、私自身、この「明白な意図を持ちながら眼に見えなくした極めて巧妙なショー」を見ているのかもしれないと思ったりします。やはり、立ち止まって客観的に見る眼を養う大切さを本書を読むと強く感じます。